カラープランニングの現場から

カラリストを志す人のために、カラービジネス業界のキーマンの方々から、
実際のカラープランニングの実務をご紹介するとともに、培われた経験からの貴重なアドバイスをお届けします。


株式会社カラープランニングセンター

代表取締役田邉 学

田邉氏

個人プロフィール

田邉 学(たなべまなぶ)
1968年東京都港区出身。武蔵野美術大学造形学部卒業。株式会社環境デザイン研究所、東京工業大学工学部建築学科研究員を経て、カラープランニングセンターに入社。2011年5月から代表取締役。武蔵野美術大学非常勤講師。川崎市、鎌倉市などの景観審議会員、港区、千代田区などの景観アドバイザー。専門は建築、土木、都市景観、屋外広告物などの色彩。日本色彩学会、都市環境デザイン会議会員。著書として「カラーコーディネーター講座」「景観まちづくり最前線」(共著)など。趣味は、幾何学抽象版画の収集、たなご・クチボソ釣り。

Q. 現在のお仕事の具合的な内容は?

建築物や土木構造物の色彩設計と都市景観に関わる色彩の方針・基準の策定が中心です。従来は8:2程度の割合で色彩設計が多かったのですが、建築・土木の色彩設計手法が一般化しつつあることや平成16年に景観法が制定されたことなどの影響から、最近は2:8程度の割合で景観に関わる仕事のボリュームが増えました。

この中には、景観条例・景観計画の策定支援といった会社の業務のほか、景観審議会の委員やアドバイザーなど、景観色彩の専門家として個人的に委嘱された業務も含まれます。

Q. 今のお仕事に携わった経緯は?

大学ではデザインの理論を学びましたが、その中で特にドイツのデザイナー、マックス・ビルの提唱する「環境形成」の理念に感銘を受けました。ヨーロッパでは、今日の日本ほどデザインが細分化・専業化されておらず、1人のデザイナーが建築や都市からプロダクト、グラフィックまでオールラウンドにこなしながら地域の環境形成に関与しています。

自分は欲張りなので、色々な分野に顔を出したいと考え、まずは環境デザインの道に進み、最初に勤務した会社では、博物館などの建築、外構、展示、サインなどの企画・設計を担当しました。正直なところ、色彩には格別の興味がなかったのですが、大学の同級生で現在の会社に勤務していた妻が出産を控えて退職することになり、身代わりとして私が現在の会社に潜り込みました。

テーマは限定されますが広範な領域に関わることができることを知り、最近になってようやく「色彩もわるくないな」と感じるようになりました。

Q. 商品などの、色を決定するまでの業務の具体的な手順・流れは?

必要な工程や作業量は業務によってかなり幅がありますが、大まかには次の4つの手順に分類できると思います。色を決めるというよりは、仕事の流れをトータルに捉えた工程です。

  • 調査分析:対象地の景観と社会的環境の把握・分析
  • 方針設定:課題の抽出と対応方針、色彩のあり方の設定
  • 計画調整:色彩計画・基準案の作成と調整
  • 管理運用:色彩の監理、色彩基準等の運用支援

典型的なマネジメントサイクルとして、計画(plan)、実行(do)、評価(check)、改善(act)のPDCAサイクルが知られていますが、景観色彩では、計画や実行の前に評価が来るのが特徴かも知れません。景観は長い時間の蓄積の上に成り立っているため、まずは現況を認識・評価し、その上で色彩のあり方や具体案を積み上げていきます。

また、通常のデザイン事務所では行わない、管理運用(改善:act)の工程も大切にしています。個々の建築や土木構造物の色彩をデザインしつつ、その集合体である景観のルールをつくるというのが私たちの会社の特徴ですから、地域の良きモデルとなる色とそれを誘導する優れたコードを関連づけ、相互に改善しながら精度を高めるよう努力しています。

Q. 使用するカラーコード・システム、参考資料などは?

景観の世界ではマンセル表色系が普及しています。実は、景観色彩の規制誘導にマンセル表色系を持ち込んだのはカラープランニングセンターです。最近では、景観条例による届出や建材の色表示など、様々なシーンでマンセル値を見かけるようになりましたが、マンセル表色系が景観色彩の公用語として定着するまでに20年以上かかりました。

調査等の具体的なツールとしては「JIS標準色票」を用います。品質や精度がよい分、高額なのが難点です。最近発売された「色彩の定規(拡充版)」は質的も申し分なく価格もこなれているため、会社用、自分用に3セット購入し使い倒しています。関係する自治体等にも紹介していますので、少なくとも30セット分の売上に貢献していると思います。

Q. 業界特有のセオリーやタブーは?

この仕事に従事して初めて感じたことですが、色彩の教科書で紹介されている調和論が当てはまるのはどちらかというと特殊なケースです。色彩学の研究は長い歴史をもちますが、景観色彩の分野は歴史が浅く、その点ではセオリーを築き洗練させていくのが私たちの役割だと自らを奮い立たせています。

タブーについて、必ずしも業界特有のものとは言えませんが、他人の選んだ色彩を完全否定することは良くないと思います。美しくない、収まりが悪いと感じる色を含め、みんなで景観をつくっているのだという感覚を共有することが大切です。そのことが理解されれば、拙い色は自ずと改善されていきます。

Q. 必要とされるスキル(教育・知識・技術等)、経験は?

色彩に関わる仕事ですから、まずは色彩学の基本を身につけていることが必要です。知識はもちろんのこと、色彩の対比や配色について実体験を踏まえた自分なりの考えをもっていることが大切です。

それらに加え環境色彩の分野では、建築や都市の基本的な成り立ちを理解していることも必要です。具体的には、平面図・立面図・断面図など建築の基本図を読解できること、都市計画の枠組みや規制体系などを理解していることなどです。商業施設や福祉施設など、特定用途の施設計画に関わる場合は、それぞれの分野に関わる基礎的な知識やトレンドを知っておく必要があります。

また、色彩を具体的に提案していく仕事ですから、そのためのツールを使いこなすことも重要です。IllustratorやPhotoshop、Indesignなどの基本操作はもとより、それらを使った美しく見やすいレイアウトができないと、この業界では苦労します。

都市の景観は、都市計画や建築、屋外広告物など様々な法制度が複雑に関係し合って形成されています。そのため、提案の前提として関連法制度の理解が欠かせません。カラープランニングセンターはこうした制度設計にも関与していますので、法の限界や抜け道なども否応なしに認識することになります。

数多くのスキルを挙げましたが、これらは、仕事を始めてからでも身につけることができます。最も大切なのは、自分の役割や義務にとらわれず、マルチプレイヤーとして何でもこなすという意欲だと思います。

Q. 日々の情報収集や努力している物事は?

私たちは業務に関係する情報をできるだけ自分たちの足や目で収集するよう心がけています。小さな業務でもまずは現場を見る工程を欠かしません。お隣の色や1本の立木がデザインを決定づける手がかりになることもあるからです。

インターネットは便利ですが、一部で激賞されている建築物が実は景観を阻害していたり、良くできたガイドラインが他都市のものを丸写しにしたものだったり・・・。ということが良くあります。このため、論評はあくまで参考、できるだけ法令や製品カタログなど事実確認のツールとして用いるように心がけています。

現代社会では嫌が応でも情報は集まってきます。デザイン業は情報産業でもありますから、情報の収集よりむしろ、流出に気を使います。

Q. 同様の仕事を望む学生や一般の方へのアドバイスは?

「何が何でも色」と考えずに、視野を広く持つことが大切だと思います。プロダクトデザイナーとしてメーカーに就職した同級生で、色彩のスペシャリストになった人が複数います。彼らがもっていたのは色のセンスや経験ではなく、色に付加価値をつける論理的な思考と総合的な企画力だと思います。

また、「色ぐらいなら何とかなる」というのも勘弁です。クリエイティブな仕事をしたいけれど専門教育を受けていないので色彩を始めてみましたという人に良く出会います。色を選ぶことは誰にでもできます。だからこそ色で生計を立てることは難しいわけです。

色彩の世界は想像するほど華やかではありません。むしろ、裏方の儲からない仕事だと考えた方がよいと思います。視野を広くもち、貧しさと長い拘束時間に耐える覚悟がある方の参加を歓迎します。

Q. 仕事で利用する七つ道具を教えて下さい。

会社プロフィール

株式会社カラープランニングセンター

株式会社カラープランニングセンター(所在地:東京都中央区日本橋馬喰町1-7-6)は、【環境色彩】の専門コンサルタントです。景観に対する意識が未成熟だった1970年代初頭に環境色彩調査の手法を開発・公表し、1985年策定の兵庫県都市景観条例では世界初の試みとして行政による景観管理にマンセル値の導入を提言、2005年には景観法制定後初めての景観計画となる小田原市の色彩基準を策定するなど、今日全国に普及した環境色彩の基礎を築いてきました。

近年の景観に対する意識の高まりに対応し、景観計画の策定を中心に、地域の環境形成に関わる計画・設計に参画するとともに、専門家の立場からその運用を支援しています。

【株式会社カラープランニングセンター】 http://www.colorplanning.net/

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