カラープランニングの現場から

カラリストを志す人のために、カラービジネス業界のキーマンの方々から、
実際のカラープランニングの実務をご紹介するとともに、培われた経験からの貴重なアドバイスをお届けします。


NECカシオモバイルコミュニケーションズ株式会社

チーフクリエイティブディレクター佐藤 敏明

佐藤氏

個人プロフィール

佐藤 敏明(さとうとしあき)
1960年東京生。1981年3月:育英工業高専(現サレジオ工業高専)卒。1981年4月:株式会社東芝入社。生活家電のプロダクトデザインを手掛ける。1989年7月:ソニー株式会社入社。携帯電話をはじめ、CDプレーヤーやカーオーディオのデザインを担当。2006年7月:日本電気株式会社入社(NECモバイルターミナル事業部クリエイティブスタジオ設立)モバイルターミナル事業部クリエイティブスタジオクリエイティブディレクター。2010年5月:NECカシオモバイルコミュニケーションズ株式会社商品戦略本部チーフクリエイティブディレクター。2012年10月1日現在NECカシオモバイルコミュニケーションズ株式会社モバイル事業本部クリエイティブスタジオチーフクリエイティブディレクター。

【趣味】世界を代表するパーシー・フェイス・オーケストラのコレクターとして音楽家や趣味人たちと情報交換を続けるほか、色彩感あるファッションを好み、メガネのコレクションとミッソーニなどの個性表現を楽しむ。また、海外の自動車デザイン動向に興味を持ち、趣味人たちとSNSを通じてとの交流を楽しむ。

Q. 現在のお仕事の具合的な内容は?

現在の職務は、NECとCASIOブランドのケータイ・スマートフォンおよび周辺機器のデザイン統括です。フィーチャーホンの時代は、佐藤可士和、amadana、SamanthaThavasa、Francfranc、Glamorous、Pierre Hermé Paris、Burtonなど各種コラボレーションを通じてカラーブランディング含めた新たな価値創造を仕掛けてきました。

日本電気・カシオ計算機・日立製作所の合弁事業により事業再編した2010年創立のNECカシオモバイルコミュニケーションでは、Casio G-Shockの流れを汲む唯一無二の衝撃耐久性を誇るスマホ「G'zOne」および、従来のNECブランド持つ便利さ・親しみやすさを進化させながら、NECならではの技術と融合した世界最薄のスマートフォン「MEDIAS」を立ち上げるなど、それぞれのブランドから世界に向けた「モノの価値×コトの価値」という新たな商品価値作りをデザイン思考と共に導く役割を担っています。

NECスマートフォン1

Q. 今のお仕事に携わった経緯は?

幼少時から乗り物の絵を描き、家電やオーディオの進化を体感しながら育った世代であり、中学卒業からインダストリアルデザイナーを目指しました。東芝とソニーでは、ユーザーひとりひとりの意識や暮らしを豊かにする手法としてライフスタイルとカラーマーケティングを用いた家電機器やIT機器デザインを推進、特にケータイ黎明期には色彩価値から業界発展に貢献した存在です。NECがモバイル事業を強化する目的に立ち上げた「クリエイティブスタジオ」の新組織設立とともに2006年に、NECのモバイルビジネスのクリエイティブディレクターに就任しました。クラウドネットワーク時代における『Nのモバイル機器』を目指し、優れた日本の技術と信頼性で定評のある『Nのケータイ・スマホ』をデザイン視点で事業推進する役目を努めています。

NECスマートフォン2

Q. 商品などの、色を決定するまでの業務の具体的な手順・流れは?

スマホやケータイは、携帯商品としての厳しい耐久性が各オペレーターで定義されています。また、一斉発売する商習慣から商品を安定して短時間で大量に製造するための量産品質まで含めたデザインプロセスが定められています。ユーザーにとってCMFは「商品性=デザイン」と認識される重要な要素であり、さまざまな傾向分析を前提に想定されるターゲットセグメンテーションとライフスタイル要素を理解しカラーバリエーション想定を組むことで量産に向けた技術開発に向けた準備を行います。

当初はイメージやサンプルを交えてのCMFコンセプトを用意、その後、スケッチやモックアップで繰り返し検討を行いながら短期間のうちに目指すべき表現を研ぎ澄ませます。主観が問われるCMFですが、商品化に際しては客観性と主観性のバランスが重要になります。CMFベンダーのリサーチの他、調達購買の商流変更や投資対効果など困難を乗り越えて商品性向上に寄与する期待値を関係各部門と共有、通信事業者の採用を受けた後は、商品化に向けて国内・海外の製造拠点と協力メーカーの実力と目指すべきデザイン表現のギャップを埋めるべくデザイナーの知恵とスキルが品質改善に貢献します。

Q. 使用するカラーコード・システム、参考資料などは?

スマホやケータイは、個人に選ばれる商品であり、道具やファッションに近い存在のため、色彩管理運用は無く常に新色提案と新色開発が前提となります。そのためにも、デザイナー自身が常に「街・店・人」に触れて時代の流れから気付きを得ることが大切と考えます。トレンドを把握するための参考資料として流行色などのデザイン情報誌、各種ファッション誌、海外カラートレンドブック等を用意するほか、StyleSightなどのWeb情報を日々チェックしています。PANTONE PLASTIC、カラーアトラス「ECA」塗装色彩見本、「DICカラーガイド」シリーズ、帝国インキ「SPカラーガイド」、セイコーアドバンス「SAカラーガイド」、自動車ボディカラー見本帳「オートカラー」などの色見本帳を用意しています。

Q. 業界特有のセオリーやタブーは?

短いサイクルで多彩な商品を入れ替えてアップグレードを促す通信事業者の商習慣上、人気変動での在庫リスクが問われます。また、メーカー側も、激しい技術競争において短期間で安定した開発・調達・製造・配送・販売といたサプライチェーンを保証する目的からも受容性の低いCMFについてはリスクと受け取る傾向があります。過去事例で見れば、グリーンやイエロー、バイオレットの色彩領域は個性的な色とマーケットが認識するため、白・黒・シルバー・ピンク・ブルーなどに各社落ち着く反面、店頭効果が重視されることから普遍に埋没することなく選ばれる「高級感」「個性」が必要とされます。手のひら操作の商品上、汚れの付着に敏感なことから「べたつく触感」より「さらっとした触感」が好まれます。

Q. 必要とされるスキル(教育・知識・技術等)、経験は?

スマホやケータイは、常に先々のサービスとテクノロジーを前提に商品開発が行われます。そのため、「世界の動向を探る好奇心」「まだ見えぬ日常生活を描く好奇心」が求められます。主観・客観を通して将来像を見極める力が必要です。また、商品が描く物語や雰囲気を伝えるための素材や色彩の放つメッセージを伝えるためのコミュニケーション能力とインスピレーション表現能力が求められます。

また、人間の感性を重視した業務領域のため、ハードウェアシステムとインフラストラクチャなどシステムを構成する要素の価値を高める要素技術の調和などのデザイン思考を実現する知識と経験が重要で、心理学や社会民俗学、マーケティング知識、色彩学、人間工学など色彩文化と色彩経済に関わるバックグラウンドが必要とされるスキルです。また、それらに柔軟に対応できる、確かな知識に裏づけされた,応用性・創造性豊かな人材が求められます。

Q. 日々の情報収集や努力している物事は?

自分目線を深めると同時に他人目線の好奇心を深めることに気をつけています。デザインはアートと違い、多くの共感を得ることでビジネスチャンスを見出す職務です。例えば、出張先で街の散策や書店で目的のコーナーだけでなく隣のカテゴリーや裏側に並ぶ雑誌に目を通すだけでも複数眼が養われると考え、自分の趣味嗜好に閉じずに幅広く動向を体感する工夫を心がけています。他業界の表現処理動向や材料加工動向についても展示会や加工現場に踏み込むことを心掛けてきました。高級菓子や化粧品のパッケージデザイン、腕時計やライターなどのファッション小物にも色々なヒントが隠されているものです。

Q. 同様の仕事を望む学生や一般の方へのアドバイスは?

私自身、色彩が好きで学生の頃からカラフルなファッションを好み、トップスとボトムス、インナーとアウター、シューズ・靴下・パンツの組み合わせなど季節や場所、気分からTPOを楽しむコーディネイトを心掛けてきました。市場ニーズがパーソナル化する家電においてそれらの経験値が発揮できたといえるでしょう。

カラーデザイナーは「ソムリエ」のように、お客様とレストランの双方の立場からそれぞれの期待に応える満足を提供する仕事です。未知の芳香と味覚をいち早く提供する先見性、既製のワインでも組み合わせる料理で魅力を再発見する提案性、ワインセラーに保管する多彩なワインはもちろん、それぞれのワイナリーの醸造プロセスを理解することが顧客満足に繋がるのと同じく、色彩の世界もリアルな体験と相手とのコミュニケーションがイマジネーションを確実な結果に繋げる訓練です。皆さんへのアドバイスは、日々の暮らしの中で「色を遊び、色と楽しく暮すこと」です。

Q. 仕事で利用する七つ道具を教えて下さい。

色彩情報面ではファッションライフスタイル誌、StyleSight,PANTONE PLASTIC,DICカラー見本など各種のトレンド情報が基本です。材料に関しては、BASFやMERK他の顔料メーカーや各種素材開発メーカーの試作が情報源となります。色彩情報と見本はあくまで参考に過ぎないため、塗料やインキの調合を行います。デザインワークで使用する代表的ツールは、かつては紙とペンやマーカー、発泡スチロールでしたが、現在では安全環境性とネットワーキング理由からデジタルデータとデジタルプロトタイピングに集約されています。使用するソフトは二次元がIllustratorPhotoshopなど三次元がPro-EやKeyshot,Rhinocerosなどと、作業内容や求められるアウトプットにより使い分けるのが基本です。

検討した造形は、Eden 3Dのプロトタイピングを使い瞬時に立体造形で確認、目的に合わない場合は即座に修正します。基本造形の確認が出来た後は、三次元データをもとに製品と同じ質感と造形を再現するデザインモックアップを製作。商品性や開発条件の検証、セールス調査等に用います。色彩や材料の質感は人間の肌で判断されるため、バーチャルな確認はせず、常にリアルな現物を制作比較することが確実な商品化プロセスに寄与すると考えています。

会社プロフィール

NEC

NECカシオモバイルコミュニケーションズ(本社所在地:神奈川県川崎市中原区下沼部1753)は、2010年6月1日に、NECの携帯電話端末事業部門とカシオ日立モバイルコミュニケーションズの統合によりスタートし、携帯電話の企画・開発・製造・保守ならびに携帯電話向けサイトの運営などを行っております。

私たちは、小型・薄型化技術、防水・耐衝撃技術、デザイン力、通信技術、クラウド技術など統合会社ならではの強みを活かし、高い技術力と商品開発力を組み合わせ、携帯電話の進化に対応していくと共に、魅力ある商品やサービスを提供してまいります。

そして、お客様に「最高のユーザー体験」をご提供できる商品やサービスを通じて、いつでも、どこでも、誰とでも、世界の全ての人々が自由にコミュニケーションできる、人間性豊かなコミュニケーション社会の実現に貢献すると共に、携帯電話市場におけるグローバルカンパニーとして、更なる飛躍を目指して邁進してまいります。

【NECカシオモバイルコミュニケーションズ株式会社】
http://www.nec-casio-mobile.co.jp/

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